マスターができるまで 久々 1383

かっさんの店のソフトクリームはひと味変わっていた。

それは、一度コーンの中でトグロ状にまいたクリームをコーンごと袋にくるみ再度冷凍庫の中で固めると言った塩梅のモノだった。

それは良い感じにかたまっており真夏にたべるには最適だった。

ケーキなどをかざっているガラスのショウケースにもたれるようにしてそれを舐めている俺に、店の奥からでてきたかっさんが

『真っ黒けになって。

ヨシヒロちゃんが運動やこして真っ黒になるじゃなんて珍しいなぁ』

と言い、

『少し痩せたんじゃねんか』

とうれしい事まで言ってくれた。

俺はそろそろゆるくなってきたコーンの下から滴り始めたクリームの白い滴を舌先でなめなめ

『そうかなぁ、、』

と言い、

『なぁ、かっさん

それより今朝の新聞を見た?

アレほんまなんじゃろか?

お父ちゃんは新聞やこは適当な事を書くから信用するな言うんじゃけんど

まんざらありもせん事は書かんじゃろ、、、』

と聞いた。

父の新聞に対する不信感は今年のはじめに、我が家で起こった偽医者事件に対しての、誤った報道に由来していた。

かっさんの顔色がさっと変わり

『読んだんか、、』

と言い、

『タカシタ君の事じゃろ、、

まさか殺人ってな、、、

水島のアパートで見つかったらしいが

ホステスさんの死体が、、

この暑さじゃけん、見つかった時はドロドロに腐敗しとったげな、、』

と言った。

腐敗、ドロドロといった言葉に猟奇的なものを感じた。

『そのホステスさん、つとめとった店のナンバーワンらしいが。

生きとった時の写真が載っとったけんど、どえれぃ美人じゃが。

新聞では同棲相手で、しかも行方不明になっとるタカシタさんを犯人あつかいで書いとるけんど、、、

どうなんじゃろなぁ、、

指名手配されとるげな。

捜査の網の目はそうとう緻密らしいけん、早晩、見つかろ、、

タカシタさんも、』

と言った。

カツマの父親がカツマやカツマの母親を捨てて行方不明になったのは今年の春頃のはなしだった。

父親はそれまで勤めていた会社もすでに退職しており、家族を捨てる決意のほどは固そうだった。

カツマとカツマの母親は何がなんでも父親の行方をつきとめると息巻いていたが、それが、まさかこのような形で、半明するとは俺も思っていなかったし、当事者達はもっと思っていなかったに相違なかった。

かっさんはなおも言い足らなさそうに

『水商売のオナゴは魔性じゃから、

なまじタカシタさんええ男じゃったから、魔物に誘われたんじゃわ、

相手にしとった男やこ、どうせ、星の数ほどおったに違いねぇけん、そのうち真犯人が捕まるわ』

と言い、奥で粉まみれになってケーキ作りに余念のないおじさんの方を顎でしゃくり

『あやって真っ白けになっとる風采のあがらん男はそこへいくと安心じゃ

魔物の方が相手にせんけん』

と笑った。

俺は時間がたってドロドロになったコーンのしっぽをひょいとつまみあげるようにして口に放り込み

『最後の最後までここのソフトはクリームがはいとって美味しいなぁ』

といい、ドロドロというかっさんの放った言葉から今、口にいれたばかりのコーンの尻尾の事を連想してしまった。

するとあれほど美味しかったソフトクリームが魔性の食い物のような気になって来た。

俺はそんな気分を払拭するかのように

『美味しかった

ごちそうさま』

とことさら明るい声を出した。

小銭を出すさい、ポケットの中でカギが指先にあたった。

父が貸してくれたアパートのカギだった。

あさってカワタカにあったさい、了解の旨を告げようと思った。

するとにわかに胸がドキドキし始めた。

家に帰ってみると台所あたりからカレーの良い匂いが流れてきていた。

俺が

『ただ今』

と言って、靴を脱いでいると、奥からドタドタという足音が聞こえて来た。

そして足音の主がヒョイと顔を出し

『ヨシヒロちゃんじゃ』

『何処行ってたの』

『おばちゃま、大忙しよ』

と順に言った。

それはタジマの美保子叔母の所の三人娘のヒトミ、ミドリ、リエというまるでしり取りでつけたような名前の俺の従姉妹達だった。